第81回 今からできる認知症になった時の準備

認知症は、65歳以上の高齢者の5人に1人が発症し、その数は700万人になる¹⁾とも言われています。さらにその有病率(発症している人の人口に対する割合)は年齢ともに増加し、90歳以上だと約60%、95歳以上だと約80%である²⁾³⁾ことが厚生労働省の調査で報告されています。

人生90年の時代を間近に控え、認知症は他人事ではありません。むしろ発症せずに生涯を終わらせる人の方が少ない時代がやってきます。そこで、認知症を自身の問題として、発症しても安心して暮らせるように、今から準備する必要があります。
この記事の執筆
今井幸充先生
医療法人社団翠会 和光病院院長 / 日本認知症ケア学会 元理事長
今井幸充先生
この記事の目次
  1. 誰に、何処で世話になるか決めておく
  2. 健康に留意する
  3. 軍資金を貯める
  4. 良い人間関係を形成する
  5. ユッキー先生のアドバイス

誰に、何処で世話になるか決めておく

認知症を発症しますと、日常の生活が困難になり、誰かに世話してもらわなければなりません。多くは、配偶者や子ですが、その者たちが世話できる環境にあるとは限りません。自身の老いとともに配偶者も老いていきますので、日々の世話は大変負担になります。少子化の時代は、世話できる子も限られていますし、むしろ「子は世話しない」と考えた方がよいのではないでしょうか。

すなわち、将来の自分の世話は自分自身で考えなければならない時代です。私は、退職し、社会的にフリーの身になった時には、できるだけ早い時期から施設での生活を選択します。配偶者がいても、2人が一緒に生活できる施設を考えます。

毎日の生活が、プロの介護者に見守られれば認知症になっても安心です。食事の世話は無論のこと、入浴やトイレなどの身の周りのこと、更に健康管理もプロにお願いできます。何よりも、家に閉じこもる生活が避けられそうです。同じ入所者との交流や施設のイベントに参加して、認知症になっても、自宅では味わえない有意義な時間が持てると確信するからです。

健康に留意する

認知症でも質の高い生活を望むならば、足腰が丈夫で、日々健康でなければいけません。それには、元気な時から、運動習慣や趣味などを通しての社会参加や社会活動に従事し、健康を意識する生活習慣を身につけておくことです。

健康の大切さは、健康を害して感じるものですが、認知症になるとその意識も失われます。しかし、身についた生活習慣は、認知症になってもなかなか失われません。それは、一度自転車に乗れると、いつまでも乗れるように、「手続き記憶」が働くからです。すなわち、今からでも健康を意識した生活を身につけておくことで、認知症になってもその習慣が継続され、健康的な生活を送ることができます。同時に認知症の進行予防にも繋がります。

軍資金を貯める

高齢者施設の入居金はピンキリです。私は都会育ちですので、部屋は狭くとも、東京の景色が見えるところ、なじみの繁華街が近いところを好みます。海や山の見える景色の良いところ、都会から離れた静かな田舎街、人それぞれ好みは異なりますが、そこでの生活も最低限の贅沢はしたいものです。それには、ある程度の蓄えが必要です。

まだ勤めている間に、自分の老後の生活を設計してみてください。現在の不動産等の価値や預貯金、年金等を調べ、将来自分の為に使える資金を一度銀行等のフィナンシャル・サポーターに相談してみてください。そして、自宅あるいは施設での毎月の必要な生活費、たまには旅行等を楽しむ遊興費などを計算し、何年その生活が続けられるか計算してみてください。

将来認知症になった時の備えとして、元気なうちに任意後見人を選任し、任意後見契約を結ぶことも考えましょう。これは、自身が財産管理などの複雑な作業ができなくなった時に、任意後見人がそれを代わりに行ってくれる制度です。任意後見人が必要になった時に、家庭裁判所に申し出ると任意後見監督人が選任され、その者が任意後見人を監視するので、認知症になっても自身のお金を安心して使えます。

いずれにしても、老いて認知症になっても、質の高い生活を継続するには軍資金が必要です。まだ働けるうちに、自身の老後のために、有効なお金の使い方を考えておいてください。日本の社会では、未だに「子が世話をするので心配ない」と考える高齢者は多いようですが、それにしても、十分な資金がないと子らも世話することはできません。

良い人間関係を形成する

認知症になると、誰かに世話をお願いするのですが、その人を予め心に決めておくことも必要です。身近な家族ならば、元気な時にその人と良い関係を作っておくための努力が必要です。世話する側からすると、嫌いな人、憎い人が認知症になっても、決して親身に世話したいとは思いません。

不幸にして、そのような人が存在しないことも考えておきましょう。おそらく、その時は、専門の介護士が世話してくれるでしょう。そこでも重要なのは、他人であっても、お世話する人が嫌な人であったら、いくら仕事だからと言っても、心のこもったケアができる訳がありません。すなわち自身が老いたと感じたときに、自身の性格を変えることは難しいかもしれませんが、若い人たちに好かれるステキな年寄りになるように努めるべきです。

ユッキー先生のアドバイス

よく「老後の準備」と言いますが、今や「認知症の準備」が重要なキーワードです。恐らく、私が認知症になって一番嫌がるのが息子達でしょう。私も息子達に世話になることなど、全く考えていません。

先日、近所に新築されたサービス付き高齢者住宅を見学に行きました。住み慣れた街を散歩しながら安心して生活できる場所と確信し、そのような施設を将来の終の棲家にすることを決めました。そして、もう一つ重要なのはお墓です。子らに墓を世話させるのも暴力的ですので、散骨してもらうように遺言に記すつもりです。



参考文献:1)二宮利治.日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究.厚生労働省.2017. (2020年3月5日アクセス)
2)内閣官房健康・医療戦略室.認知症年齢別有病率の推移等について.内閣官房内閣広報室(2020年3月5日アクセス)
3)朝田隆.都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応.厚生労働省.2013.(2020年3月5日アクセス)

(2020年3月10日)

【この記事を読んだ方へのおすすめ記事】

このページの
上へ戻る