第78回 認知症の人の身体拘束~現状では~その①(全2回)
- 2019年9月11日のNHKクローズアップ現代+で「身近な病院でも!なぜ減らない“身体拘束”」をテーマに、今、医療現場で問題となっている高齢患者への身体拘束の実態を取りあげました。この放映の反響が大きかったことから、10月16日には同じNHKクローズアップ現代+で「徹底討論!それでも必要?一般病院の“身体拘束”」と題して、現場の医師、看護師、介護士らがそれぞれの立場からこの問題について討論しました。
今回のコラムでは、私の臨床経験から、身体拘束の現状と課題について、掘り下げて考えてみました。
<その②は12/5(木)配信>
- この記事の執筆
私の立場
私が勤務する埼玉県和光市の医療法人社団翠会和光病院は、2002年4月に認知症医療を専門とする医療機関として開院しました。診療標榜科は精神科ですが、対象疾患は、外来、入院診療ともに認知症とその周辺の精神疾患です。当院は、開院当時から、法人の方針で身体抑制を行わない認知症医療を展開してきました。
私は、2012年10月に和光病院の院長を拝命しました。前院長からお誘いがあった時、正直なところ戸惑いました。果たして認知症の専門病院で“拘束をしない医療”などあり得るのか、と疑念を抱いたからです。
当時私は、日本社会事業大学大学院で認知症ケアの研究と教育に携わっていました。認知症患者の身体拘束をテーマに学生たちと議論した際には、そのサービスの非人道性を非難し、患者の人権とは何か、患者主体の医療とは何か、を熱く語ったことを覚えています。
和光病院の話があった時に、私の脳裏に浮かんだんことは、授業で教えていた「医療と人権」の話の内容とは全く真逆な事でした。臨床現場では、患者の安全性を最優先すべきで、そのための身体拘束は、認知症の人の異常な行動を考えると、やむを得ない行為ではないか、と考えました。そして、教育と臨床現場とは違う。教育は正論を教え、現場は必ずしも正しいことだけを実践している訳でない、と心の中で自分の矛盾を正当化していました。
考えを巡らしている間に、身体拘束をしないと公言している和光病院の現場に携わすことに徐々に興味が沸き、その実践に期待と夢を膨らませ、院長を拝命することに決めました。当初は慣れない院長職と診療に追われ、身体拘束を意識する暇がありませんでした。
(2019年11月28日)
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