第1回 「認知症かな?」と思ったら ~病院に行くべきときは~

この記事の執筆
今井幸充先生
医療法人社団翠会 和光病院院長 / 日本認知症ケア学会 元理事長
今井幸充先生
この記事の目次
  1. 認知症の「認知」とは
  2. ユッキー先生のアドバイス

認知症の「認知」とは

認知症は、記憶障害を伴う認知機能の障害によって社会で活躍したり、ひとりで生活したりすることが困難になる病気です。この代表的な病気がアルツハイマー型認知症ですが、他にも脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症など、認知症を主症状とする脳の病気は沢山あります。

では、何故、認知症になると日常生活が一人では営めなくなるのでしょうか。認知機能とは、簡単に説明しますと、人と人との交流に必要なコミュニケーション能力であり、また人が生活するに必要な能力でもあります。ですからこの能力が冒されると、自分の考えや希望を他者に伝えること、困ったときの適切な解決方法、物事の善し悪しの分別など、以前は問題なくできていたことができなくなります。また読んだり、書いたり、作ったり、しゃべったり、人間が持つ高度な能力も冒さ、これらの行為もできなくなります。このように、認知機能とは、知能とほぼ同じ能力で、この能力が冒されるために社会での混乱や生活上の混乱を来たし、ケアなしでは生活できなくなります。

記憶は、この認知機能に含まれる能力の一つで、医学的に認知症と診断するためには、記憶の障害がなければなりません。その上で他の認知機能も冒され、社会生活や日常生活に混乱がみられ、生活ができなくなったことが確認されると、認知症と診断します。

ここで、「認知機能の障害に伴う日常生活の混乱」とは具体的にどのようなことか説明しましょう。自分の大切な家族が認知症にかかったか否かを判断するとき、「もの忘れ」は重要な決め手になりますが、その「もの忘れ」が認知症の「もの忘れ」か、あるいは加齢に伴う正常の「もの忘れ」か、を区別しなければなりません。そこで重要なのが日常生活での変化、混乱です。「もの忘れ」があっても普段の生活で混乱がなく、これまでと全く同じような営みができていたら認知症とは診断できません。ごく初期は、「趣味に興味をなくした」「外出しなくなった」「あまり人と喋らなくなった」「家に閉じこもるようになった」「料理を作らなくなった」「『あの、その』と言った代名詞が会話に多くなった」など、混乱とは言い難い状態ですが、このように以前と違う生活の様子がみられたら要注意です。認知症の人の家族に病気の始まりの様子を詳しく尋ねると、このような変化に気づいていましたが、ただその時は「歳のせい」と気楽に考えていたようです。一緒に生活して家族は、買い物に行って帰れなくなった、銀行でお金が出せなくなった、薬の呑み方がわからなくなった、邪推がひどくなった、など、家族がご本人の対応に実際に困るようにならないと「認知症に罹ったかもしれない」となかなか思えないようです。

それ故に、認知症の最初の発見は、「その人の生活が変わった」「その人らしさがなくなった」と言ったサインが重要で、それらを見落とさないことです。

ユッキー先生のアドバイス

ご家族が「認知症かな~??」と思ったら、またご本人が「もの忘れがひどい、認知症かな~」と心配になったら、できるだけ早く専門医を受診しましょう。

その理由は2つあります。

1つ目の理由。認知症には、脳の神経細胞が変性して徐々に進行していくアルツハイマー型認知症などの本来の認知症と、高血圧、糖尿病、高脂血症、心不全、慢性呼吸器疾患のように身体の病気や脳卒中、正常圧水頭症、硬膜下血腫などの脳の急性の病気などで、一時的に認知症になり、身体の病気の治療により認知症が改善する「治る認知症」の2つのタイプがあります。ご家族が「認知症」と疑った時に、それがどちらのタイプの認知症なのかをできるだけ早く鑑別する必要があります。特に「治る認知症」のタイプは、その原因となっている病気を治療することで認知症の症状も消失し、放っておくと本来の認知症に発展してしまうからです。例えば、夏の時期の熱中症では、その最初の症状として、脱水症状に加えて認知症の症状も現れます。そこで点滴などで水分を補給することで、脱水が改善され、認知症も改善されます。また、風邪の薬や精神の安定剤など、よく使われているクスリに中には、人によって一時的に認知症にしてしまうものもあります。その場合は、呑んでいる薬をやめなければいけません。

このように、ご家族が「認知症かな?」と思った時、「認知症だからしかたない」「治らない」と決めつけずに、ご本人の身体の状態をチェックし、「治る認知症」であれば、できるだけ早く治療を施す必要がありますので、かかりつけ医に必ず相談してください。

2つ目の理由。ご家族が最初に「おかしい」と思った事は、家族も本人も今すぐに「何とかしなければならない」という危機感に満ちた症状でないことが大半で、また「歳のせい」と病気とは考えようとしませんから、どうしても医療機関への受診が後回しになりがちです。家族が最初に気づいた頃は、多くの場合、軽度認知障害と言って、認知症ではないが、記憶力は同じ年代の人と比べると多少落ちている状態です。この時期に治療を開始することで認知症に伸展することを防いだり、その発症を遅らせたりしますので、上記の1つめの理由と同じように、早期に医療機関に相談してください。

いずれにしても、認知症は「病気」ですから、ごく初期に、また軽度認知障害の状態で受診し、本当の認知症にならないよう医療に相談しましょう。またできるだけ早い時期に治療を開始して、その進行を抑えるようにしましょう。

「ユッキー先生の認知症診察室」は、もの忘れ外来での経験談や認知症に関する新しい医療情報についてお伝えする新しいコーナーです。認知症のケアは大きな負担であることは言うまでもありませんが、正しい知識とケアは、その軽減に繋がります。このコラムを通して、皆さんと一緒に認知症のことを考え、少しでも認知症の人がこころ穏やかな生活を送れるような対応を考えていきましょう。ご期待ください。

ユッキー先生より

(2012年8月2日)

【この記事を読んだ方へのおすすめ記事】

このページの
上へ戻る