第78回 認知症の人の身体拘束~現状では~その②(全2回)
- 第78回 認知症の人の身体拘束~現状では~その①(全2回)
2019年9月11日のNHKクローズアップ現代+で「身近な病院でも!なぜ減らない“身体拘束”」をテーマに、今、医療現場で問題となっている高齢患者への身体拘束の実態を取りあげました。この放映の反響が大きかったことから、10月16日には同じNHKクローズアップ現代+で「徹底討論!それでも必要?一般病院の“身体拘束”」と題して、現場の医師、看護師、介護士らがそれぞれの立場からこの問題について討論しました。
全2回にわたってお送りしている今回のコラム、その②では、その①からの内容をより詳しくご説明します。
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和光病院の対応
和光病院に就任してからしばらくの間、身体拘束を意識しなかったのは、それを必要とする現場に遭遇しなかったからです。各病棟には、認知症の行動・心理症状<BPSD>のために、家庭や施設で対応できなくなった患者さんが入院しているのですが、身体拘束が必要と思わせる患者は見当たらず、毎日の申し送りやカンファレンスでも、身体拘束の話題は出ませんでした。
私が最初に身体拘束を意識したのは、インフルエンザ患者の処遇で、その年は病棟で感染者が続出しました。その中で、発熱しているにも関わらず、病棟内を徘徊する患者さんの対応に苦慮しました。和光病院には隔離室がないため、個室でケアすることにしましたが、患者さんには効果なく、私は身体拘束もやむなしと覚悟しました。
その病棟カンファレンスでは、患者さんにマスクをするようにお願いして、マンツーマンで対応することにしました。そうすると、個室ベッドで横になる時間が長くなり、一人にしても短時間であれば徘徊せず就床していることが多くなり、なんとか感染の拡大を抑えることができました。
和光病院には、身体拘束をケアの手段と考えない風土があり、各病棟には拘束用の道具を一切おいてありません。また新人スタッフは、入職時に拘束をしない病院であることを了解し、初期研修を義務付け、拘束しないケアを学びます。このような病棟環境では、カンファレンス等で身体拘束を提案する職員はいません。
身体拘束をケアの手段として認めると、その現場では身体拘束は正当な手段と解釈します。人権侵害について悩むスタッフもいますが、一人のスタッフが身体拘束をケアに取り入れていれば、他のスタッフも正しいケアとして身体拘束を日常的に用いるようになります。すなわち、拘束をすることが当たり前となり、人権等の問題意識が薄れ、それを意識しなくなってくるのが現状ではないでしょうか。
和光病院では、15年以上身体拘束をしない医療を展開してきました。そこには、日常のケアの手段として身体拘束は存在しない、という病院全体の風土です。とはいえ、何か大きな出来事がおこり、指導者が「この場合はしかたない」と考えた途端に、その風土が崩される可能性もあります。
全ての職員が身体拘束はケアの道具ではない、という意識を持ち続けることが重要ですが、それには、経営層や指導者が身体拘束を認めない、という固い意志と団結を職員に示すことです。リーダが一言でも身体拘束を認めるような発言をすると、その築き上げた風土は一瞬にして壊れます。
医療現場での身体拘束の現状
急性期医療では、治療のために複雑な医療器具を用いることから、その安全性確保のために身体拘束を行う場合があります。ただ、患者が治療内容を理解し、承諾したなら、恐らく身体拘束は必要ないでしょう。しかし、重症患者や意識障害を伴う場合など、無意識に医療器具を外してしまう患者もいますので、治療上拘束が必要なこともあります。
クローズアップ現代で身体拘束が問題になった患者の多くは、認知症の人です。病棟で落ち着かない、介入時に抵抗する、指示に従えない、奇声を発す、夜間寝ない、暴言・暴力、時には器物を破損してしまう、などの困った行動(認知症の行動・心理症状<BPSD>)がみられると、他の患者さんに迷惑、事故が起きる、治療・ケアができない、などの理由から身体拘束を実施しているようです。
次回のコラムでは、認知症の身体拘束の問題をさらに考えてみましょう。
ユッキー先生のアドバイス
過去のコラムで、この問題を取り上げなかった理由を自問しました。やはり医療人として、この問題を真剣に考えるべきですが、その解決策はなかなか見つからないのです。医療現場では、身体拘束に賛否両論があり、またその折衷案を見出すのも難しいようです。医療は、生命と人権を最大限に尊重すべき聖職です。次回のコラムでは、この課題にも触れながら、身体拘束の問題を考えます。
(2019年12月5日)
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