山口先生コラム「やさしい家族信託」第14回:Q&A 親の認知症に備えて家族信託しておきたい「自分でできる?家族信託手続きの流れ」

2019年12月20日

司法書士事務所ともえみ 代表司法書士 山口先生コラム「やさしい家族信託」

山口良里子先生

厚生労働省によれば、2025年には認知症患者が700万⼈になると⾔われています。認知症になると資産は凍結され、⾃分や家族のために財産を動かすことができなくなります。

本コラムでは、「職業後見人」として高齢者の方の財産を管理し、また、自身の両親の「家族信託受託者」としても活動する高齢者支援専門の司法書士である山口良里子先生が、認知症から⼤切な資産を守るために注⽬される「家族信託」についてわかりやすく解説します。


この記事の執筆
山口良里子先生
司法書士事務所ともえみ 代表司法書士
山口良里子先生
この記事の目次
  1. 【質問】親の認知症に備えて、家族信託しておきたい。自分でも家族信託の手続きはできますか?
  2. 【答え】自分でできる部分と専門家に依頼したほうが望ましい部分があります。~家族信託手続きの流れ~
  3. 【解説】【自分でできる?家族信託の手続きの流れ:まとめ】

【質問】親の認知症に備えて、家族信託しておきたい。自分でも家族信託の手続きはできますか?

もうすぐ80代の親の認知症が心配で、「認知症ねっと」で情報を収集しはじめました。認知症になると、医療や介護の対策だけでなく、お金の管理や財産の処分の問題もでてくる。「家族信託」という制度が、高齢期の親のお金の管理に使えるということが分かりました。そして、我が家の現状をチェックしてもらい、実際に家族信託契約を締結し、利用していくことにしました。

ただ、果たして何から手を付けていいのかもわかりません。家族信託の手続きというのは、自分でもできるのでしょうか?

【答え】自分でできる部分と専門家に依頼したほうが望ましい部分があります。~家族信託手続きの流れ~

いよいよ、親と自分で家族信託の契約を実際に締結し、利用していくことにしたA子さん。しかし、何から手をつけたらいいのでしょうか?

家族信託の契約を締結して利用スタートしていくまでのステップは大きく3つに分かれます。

【家族信託スタートまでの3つのステップ】

家族信託実践までの3つのステップ 内容
①整理する ①家族の状況
②財産の状況
③希望について
②設計する ①委託者について
②受託者について
③内容について
③実行する ①契約書を作成する
②信託登記手続きをする
③信託口口座を開設する
家族信託スタート 信託された財産について、信託契約目的に従って、管理、運用をスタートする
①善管注意義務 ②忠実義務③分別管理義務

まずは、
①家族信託契約の前提となる情報を整理整頓します。

家族の情報を整理整頓することで、家族信託が我が家に必要か、我が家にできそうか、などの見通しを立てることができます。(家族信託コラム11回12回13回を参照)

自分たち家族のことなので、「自分たちでできる」=「自分たちにしかできない」とも言えます。
※「そもそも整理整頓が出来ないから悩んでいる」という方は、思い切って、そこから専門家へ相談されてみるのもよいでしょう。

次に、家族信託の具体的な内容を決めていきます。これを、
②家族信託を設計するといいます。

家族信託は、長期にわたり、それぞれのご家族を拘束する契約であり、法務、税務、心情面などを総合的に判断して設計していく必要があります。また、スタートしたあとに起こりうる事態を予測しながら、それぞれのご家族にあった、使いやすい内容にしておくことが不可欠です。家の設計を専門家に依頼するのと同じように、家族信託の設計は、家族信託の専門家に依頼するのがよい¹⁾と言えます。

自分たちで整理整頓した情報をもとに、あるいは整理整頓から手伝ってくれ「我が家にとって、どのような信託が最適なのか」「そもそも信託が必要か」「信託だけで十分か」の設計図を提案しくれる専門家に出会えるかがカギといえるでしょう。
※士業の独占業務ではないため、様々な職種の専門家が「家族信託の設計コンサルティングサービス」を提供しています。²⁾

最後に、設計内容を実際の契約書などの形にしていく作業があります。

家族信託の設計図を実際に形にする工程には、大きく分けて

①契約書の作成
②信託登記の申請
③信託口口座の開設

の3つの項目があります。

これらは、法律で取り扱える士業が定められた業務であるため、各専門士業に依頼することになります。³⁾
※「家族信託の設計コンサルティングサービス」を提供している会社が、専門士業と連携している場合と、専門士業が「家族信託の設計コンサルティングサービス」から一連で手続き実行までで行ってくれる場合があります。

これらの3つのステップを経て、いよいよ「我が家の家族信託」のスタートとなります。

家族信託がスタートしたのちは、信託が終了するまで(例:ご両親が他界するときまで)、信託された親の財産を自分たちで管理することになります。つまり、スタートしたら、最初から、最後まで「自分たちでできる」ということです。

「自分たちでできる」といっても、長い期間の家族の取り組みとなるので、困ったことがあればすぐ専門家に相談できるようにしておかれるのがオススメです。家を建てた後の家まわりの様々なメンテナンスなどを設計や建築をしてくれた専門家へ相談したりお願いしたりするのと同じイメージです。

以上のとおり、家族信託のスタートまでには、3つのステップがあり、あなた自身でできること、専門家に依頼すべきことがあります。

最初の一歩は、なんだか大変そうですが、スタートしてしまうと、圧倒的に長い期間、あなた自身で親のお金の管理をしてあげられるようになります。

あなたが、お金の管理をしてあげることができれば、それを使って、親のための様々な介護サービスや家事代行サービスを申し込んであげやすくなります。脳トレジムに通ったり、認知機能に良いサプリを頼んだり、孫やひ孫と一緒に温泉旅行でリフレッシュしてみたり。親に代わってあなたが親の家のリフォームや施設の入居など大きなお金の出し入れをしてあげることも可能になります。

あなたにとっても、親にとっても選択肢が広がっていく、「やさしい家族信託」のはじめの一歩をぜひスタートさせてください。

【解説】【自分でできる?家族信託の手続きの流れ:まとめ】

家族信託実践までの3つのステップ 内容 自分でできる?
専門家に頼む?
①整理する ①家族の状況
②財産の状況
③希望について
【自分でできる(自分たちで行う】
②設計する ①家族信託が必要か
②希望を実現できるか
③具体的内容について
(委託者、受託者、目的、財産、その他)
【家族信託の専門家に相談する】
③実行する ①契約書を作成する
②信託登記手続きをする
③信託口口座を開設する
【特定の士業に依頼する】
①司法書士、行政書士、弁護士
②司法書士
③自分でもできるが、専門家に依頼したほうがスムーズ
家族信託スタート 信託された財産について、信託契約目的に従って、管理、運用をスタートする
①善管注意義務 ②忠実義務
③分別管理義務
【自分でできる(自分たちで行う)】


「家族信託」とは、一般社団法人家族信託普及協会の登録商標です。本コラムの著者は、一般社団法人家族信託普及協会の認定家族信託専門士です。
本コラムで紹介する事例は、フィクションです。実際に家族信託をご検討される場合は、専門家へご相談ください。


参考1)一般社団法人家族信託普及協会「家族信託コーディネーター・専門士研修」修了者名簿
参考2)家族信託における各役割のイメージ
参考3)家族信託における各役割のイメージ

【この記事を読んだ方へのおすすめ記事】

このページの
上へ戻る