第8回 進むアルツハイマー遺伝子の研究

2016年1月1日

今回は東京大学医学部附属病院 神経内科 特別外来 メモリークリニックでアルツハイマー病(AD)やレビー小体病、前頭側頭葉型萎縮症等の疾患の診断、治療に当たっていらっしゃる岩田淳先生にインタビューさせていただきました。

岩田先生は認知症の診断・治療だけではなく、臨床研究も行っておりますので、認知症の研究も含めた幅広い内容をお伺いさせていただきました。全9回でお送りいたします。

岩田先生のインタビューを第1回から読む
話し手
岩田淳先生
東京大学大学院医学系研究科神経内科学 講師
岩田淳先生

第8回 進むアルツハイマー遺伝子の研究

東京大学医学部附属病院の専門外来で認知症患者の診察に当るとともに、医学に関するさまざま研究にも携わる岩田ドクター。

今回は、数ある研究の中のひとつである「エピジェネティクス」についてのお話です。近年、その患者数の増加が問題となっているアルツハイマー病にもエピジェネティクスが関係しているのではと考えられています。

アルツハイマー病の遺伝子を探るエピジェネティクス

―― 先生の研究されているエピジェネティクスとはどういったものでしょうか?

エピジェネティクスは直接的な遺伝子の変異ではなく、環境因子による遺伝子の変化を探る学問です。ヒトは生まれてから死ぬまでの間に周りの影響で遺伝情報が変化していきます。遺伝子の配列そのものには変化が生じにくいですが、遺伝子の修飾だとか配列以外の周辺の情報には結構簡単に変化が生じます。

アルツハイマー病の遺伝の話になると、最も強い遺伝因子はアポリポ蛋白E4だと思います。親も祖母もアルツハイマー病ですとおっしゃる方がいた場合は、アポリポ蛋白E4の方かなと思うようには一応しています。それは比較的当たりますね。

ただ、アポリポ蛋白E4を有していなくても、アルツハイマー病にかかる方はたくさんいらっしゃるので、そういう方々はなぜなるのかという話になってくると、一つはアポリポ蛋白E4以外の遺伝的素因があるのかもしれないし、環境素因ということで、エピジェネティクスが関係しているかもしれないとも考えるわけです。簡単に言えば毎日の生活習慣だとかお酒、煙草、運動のような外的な要因が遺伝子の情報を変化させているのだろうと思います。

エピジェネティクスというのは、産まれてから死ぬまでの間に遺伝子の変化が起こることを指していますから、何が原因で変化が起こるかはわかりませんが、毎日毎日の積み重ねが原因で患者さんの脳で何らかの異常が生じてなるのだろうなと思って、研究しています。

―― 今の臨床とはどうつなげていらっしゃるのでしょうか?

今は、亡くなった方の脳を使わせて頂いて、研究をしています。せっかく御検体をいただいているのですから、その頂いた脳からどうやって情報抽出していくのかという、情報の抽出方法を考えています。病気の診断という点では、顕微鏡で観察するというのが一番簡単かつ正確な方法なのだけれども、顕微鏡でみるだけでは、どんな分子がどうなっているのかというところまでは簡単にはわかりません。

では、どういう方法がいいかというと、色々あるのですが、私たちはアルツハイマー病の患者さんの脳の遺伝子に異常なメチル化という変化が生じて病気の発症に関係していると考えています。それを証明するために神経細胞の細胞核だけを脳から取り出して解析を続けています。方法としては結構難しいのですが、なんとか解析できています。

いま得ているデータからは発症に関与する未知の異常があるという結論なのですけれども。病気の一つの原因になっている可能性があるはずだという考え方で研究をしています。まだ発表出来る段階ではありませんが…

第9回 「アルツハイマー型認知症の早期発見と予防」に続く 岩田淳先生の他のインタビューを見る
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