今野先生コラム「食事で認知症予防」第4回:記憶力維持に重要なコリン
ブレインケアクリニック院長 今野先生コラム「食事で認知症予防」
認知症予防の中でも特に関心が寄せられている「食事」。多くのメディアで様々な食材や栄養素が取り上げられる中、どんなものをどのように摂ったらよいのか、戸惑っている方も多いのではないでしょうか。
そこで、認知症予防のプログラムを提供するブレインクリニックの院長であり、栄養についても詳しい今野裕之先生が、栄養・食事についてシリーズで解説。皆さんに正しい情報をお伝えします。
- この記事の執筆
コリンとはどんな成分?
今回は「コリン」という成分をご紹介したいと思います。コリンは生物の細胞を形作る細胞膜を作るために必要な物質で、天然の食品中はどれもある程度のコリンを含んでいます。
記憶力維持に欠かせないコリン
コリンには細胞膜を形成する働きのほか、脂質の輸送や代謝、遺伝子発現、神経や脳の発育促進など様々な働きがあります。認知症予防において特に重要なのは、アセチルコリンという物質の材料になるということです。
アセチルコリンとは、神経の信号をリレーのバトンのように伝えていく神経伝達物質の1つで、特に記憶力に関係しています。アルツハイマー病という代表的な認知症では、コリンをアセチルコリンに変える酵素が少なくなっており、結果としてアセチルコリンが著しく不足しています。認知症になると新しいことを覚えられなくなるのはこのことも大きな理由の一つです。アリセプトなど、抗認知症薬の多くはアセチルコリンを分解する酵素の働きを抑えることによって脳内のアセチルコリンの量を増やし、記憶力の改善・維持に役立ちます。
ちなみに、米国の65歳以上の男女3434人を7年間追跡した研究で、アセチルコリンの作用を遮断する薬を長期間使っていると認知症になる可能性が高くなるという報告があります。この作用を持つ薬物には、古いタイプの抗ヒスタミン薬、三環系抗うつ薬、過活動性膀胱の薬、およびパーキンソン病の症状を緩和するための薬などがあります(1)。物忘れが気になる方は、必要以上に抗コリン作用を持つ薬を飲んでいないかチェックしてみましょう。
ほとんどの人はコリン不足!?
しかしながら、そもそも材料が足りなければアセチルコリンも作れません。私たちは十分なコリンを取れているのでしょうか?日本ではコリンの摂取基準が設定されていませんので、そもそも足りているかどうかがわかりませんが、米国では適切な摂取量として1日あたり成人男性が550㎎、成人女性は425㎎としています。
コリンは卵、肉、大豆、乳製品など、タンパクや脂質を多く含む食品で特に豊富です。肉や卵をよく食べているイメージがある欧米人ならばコリンは十分に摂れているだろうと思ってしまいますが、2013年から2014年の調査では、米国人の一日平均摂取量は、男性で402mg、女性で278mgと不足していることがわかったそうです。米国人さえ不足しているのですから、私たち日本人の摂取量はもっと少ないのではないかと推測されます。
ちなみにコリンが欠乏すると、動脈硬化や脂肪肝などが起こりやすくなる可能性があります。
コリンに関する研究
認知機能とコリン摂取が関係していることを示す研究がいくつかあります。例えば、ノルウェーの70〜74歳の成人2195人の研究では、コリンの血中濃度が低いグループは、感覚運動速度、知覚速度、実行機能および全般的な認知機能が、血中濃度が高い群よりも有意に低かったと報告しています(2)。
また、36〜83歳の1391名を対象とした調査では、より多くのコリンを摂取していた人は言語記憶と視覚記憶をより高く維持できていたことがわかりました(3)。
残念ながら、一旦認知症になってしまうとコリンを摂取しても効果ははっきりしないという研究が多いのですが、早期から気をつけて摂取していれば認知機能の維持に役立つようです。脳の健康においては間違いなく重要な栄養素の一つと言えるでしょう。
コリンの摂り方
コリンを多く含む身近な食品は、卵(特に卵黄の部分)、大豆、レバー、赤身肉など。このような食品は、老化や認知症予防に役立つビタミンB群や鉄などの必須栄養素も含まれています。
しかし、歳をとるにつれて消化能力が落ちてくると、しっかり食べているつもりでも食物を十分に消化吸収できなくなっている場合があります。そのような時は調理方法を工夫する、消化酵素を用いるなどの工夫の他、サプリメントや栄養補助食品からコリンを摂取するのも良いでしょう。
副作用としては過剰摂取した場合に発汗、魚くさい体臭、胃腸の不調、嘔吐、下痢などがみられることがあります。米国での摂取上限は1日あたり3500mg、卵に換算すると20個前後です。めったにこの上限を超えないとは思いますが、少なくともこれを超えないように気をつけましょう。
参考文献
1.Gray SL, Hanlon JT. Anticholinergic medication use and dementia: latest evidence and clinical implications. Ther Adv Drug Saf 7: 217–224, 2016.
2.Nurk E, Refsum H, Bjelland I, Drevon CA, Tell GS, Ueland PM, Vollset SE, Engedal K, Nygaard HA, Smith DA. Plasma free choline, betaine and cognitive performance: the Hordaland Health Study. Br J Nutr 109: 511–519, 2012.
3.Poly C, Massaro JM, Seshadri S, Wolf PA, Cho E, Krall E, Jacques PF, Au R. The relation of dietary choline to cognitive performance and white-matter hyperintensity in the Framingham Offspring Cohort. American Journal of Clinical Nutrition 94: 1584–1591, 2011.
- 【PR】治験参加者募集中!もの忘れなどのある高齢者でも、安心して使える睡眠治療薬の提供を目指して
- 11/28(木)「オンラインフレイル予防講座」防災編を開催(福岡市)
- 10/30(水)「オンラインフレイル予防講座」口腔編を開催(福岡市)
- 認知症予防医/広川慶裕医師の新刊「脳のスペックを最大化する食事」7/20発売
- 認知症予防医/広川慶裕医師の新刊「潜伏期間は20年。今なら間に合う 認知症は自分で防げる!」
- 広川慶裕医師の、認知症予防のことがよく分かる『認トレ®️ベーシック講座』開講!
- 知ると知らないじゃ大違い!民間介護保険って何?
- 酸化ストレスを減らすと認知症予防に!秘密はサプリメント
- ユッキー先生の認知症コラム第92回:あるべき姿の認知症ケア
- 認知症専門医による認知症疾患啓発イベントを開催
- ポイントは食生活にあった。認知機能維持に必要なのは・・・
- 認知症予防は40代から!摂ると差が出る栄養素とは。
- 山口先生のコラム「やさしい家族信託」第17回:Q&A 外出自粛で、認知機能の低下が心配。家族信託、遺言、後見、今できることが知りたい
- 【広川先生監修】5分で分かる認知機能チェック(無料)はこちら
- 認知症は予防できるの?
- 認知症の種類とその詳細はこちら