【田平武先生インタビュー】第1回:認知症予防の今:脳のネットワークをつくる
順天堂大学大学院客員教授 田平武先生インタビュー
認知症予防の専門家として、数多くのセミナーで講演を行う田平武先生。インタビュー第1回目は、現在行われている認知症予防法やその重要性、メカニズムを詳しくお聞きしました。
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順天堂大学大学院の客員教授として、また、日本認知症学会専門医として、数多くの認知症患者と向き合ってこられた田平武先生。認知症に関わるセミナーでの講演も行っており、2017年3月に行われた認知症予防セミナーでの認知症の早期発見の重要性を唱えた講演は、参加者の注目を集めました。
認知症ねっとでは田平先生にインタビューを行い、認知症予防の現状や認知症の早期発見について詳しくお話を伺いました。
広く知られ始めた、認知症予防における運動の効果
―― 認知症予防セミナーでも詳しく解説されていましたが、認知症予防に対する意識は変わってきていると感じますか。
そうですね。認知症予防において運動が大事だということがだいぶ周知されてきたと思います。実際に多くの人が認知症予防のために運動に取り組んでいます。
―― 具体的にはどのような運動がよいのでしょうか。
手っ取り早いのは「歩く」ことです。1日40分くらい歩くのが理想ですが、一気にそんなに歩けないという方は、朝晩20分ずつ歩くのでもいいんです。とにかく体をよく動かすことが大切です。
―― 運動以外ではどのようなものを勧めていますか。
食べ物に気をつけることですね。魚を意識して食べること。無理に青魚でなくても、魚なら何でもいいですよ、とよく話しています。地中海料理も認知症予防によいことがわかっていて、地中海料理に使われる黄色野菜や魚介類、ナッツ類、オリーブオイルといったものを勧めています。
新しいことに挑戦すると予備能が増え、認知症予防に
運動と食事のほかには、脳をよく使うことも大切です。特に最近言われているのは、普段使わない脳を使うのがよい、ということです。それによって「脳の予備能」を増やすんですね。
―― 予備能とはわかりやすく言うとどういったものでしょうか。
予備能は、脳の中にたくさんのネットワークを作るということです。私たちの脳というのは神経細胞1個ではどうにもならないのでネットワークを形成するんです。そしてそのネットワークがたくさんあればあるほど、その予備能が多いと言われています。
例えば100個のネットワークを持っている人がいるとしますよね。その人の脳にアルツハイマー病の変化が起こって、そのうちの50個が崩れたとしても、まだ50個のネットワークが残っていて、それが生きていれば認知症にはならないと考えられます。
―― 予備能を増やすにはどういったことをすればよいのですか。
脳の予備能を増やすには、普段使っていない脳を使う必要があります。私たちの脳というのは1,300gぐらいあるのですが、実際に使っているのはそのうちの10%ぐらいらしいんですね。その使っていない脳を使ってネットワークを増やすんです。そのためには、いつもと違う新しいことをやらなくちゃいけない。日頃と同じことばかりやっていても、その関係のネットワークが刺激されるだけで新しいネットワークにはならないんです。好奇心旺盛で新しいことに挑戦していく人ほどネットワークが増えると言われています。
運動も食事もすべてが脳のネットワーク形成につながる
先ほど食事のお話で「お魚を食べましょう」、「地中海料理を食べましょう」といったことを話しましたが、これらもすべて予備能を増やすネットワーク形成に関わってきます。ネットワークとは何かというと、神経と神経の結合なんです。そして結合の部分をシナプスといいます。このシナプスがたくさんあればあるほど、ネットワークがたくさんできるのですが、そのシナプス形成に必要なのが、そういった魚や油なんですね。
そして、運動をして体が元気な状態だと脳も元気になります。「健全なる精神は健全なる身体に宿る」と言いますが、まさにそうなんですね。
昔も今も変わらない「発症前の予防」の重要性
―― 昔は「認知症はなってしまうと治らない」という話ばかりが言われていたと思うのですが、予防方法が確立した今でもそれは変わらないのでしょうか。
現在、認知症を発症してからの薬は開発されていますが、対症療法として使用するもので、根本的な治療薬というのはなにひとつありません。いろんな治験が行われていますが、まだひとつもうまくいっていないわけです。
つまり、現在でも発症してからでは治せず、若干進行を遅らせる程度のことしかできない状態です。そうなるとやはり、認知症発症前の予防が重要となってくるのです。
次回は、認知症の早期発見と治療について詳しくお伺いします。
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