【浦上先生の認知症コラム】高齢者をとりまく運転事故の現状とは

2016年10月27日

近年、認知症による運転中の事故増加が問題視されており、2017年には、免許更新時75歳以上のドライバーに課せられた認知機能検査(講習予備検査)の運用が厳しくなります。高齢者による事故の現状と、認知症の早期発見の重要性について知っておきましょう。

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少しでも変化・恐怖を感じたら注意を

定年退職したYさんが異変を感じ始めたのは1年ほど前。もの忘れやちょっとしたミスが増え、おかしいと感じるようになりました。その後、待ち合わせの場所を間違える、券売機の使い方がわからない…など、これまであたり前にできていたことができなくなってきたのです。 介護福祉士の資格をもつYさんの奥様は、様子がおかしいと感じていながらもあえて口を出さず、そっと見守っていましました。しかし、ある晩、Yさんが奥様に「自分がわからない、怖い」と打ち明けたことをきっかけに、専門医の診察を受けてみようということになったといいます。

診察の結果はMCI(軽度認知障害)。診断後、Yさんは週に1度認知機能回復のためのトレーニングを行っています。

YさんのようにMCIの段階で気づき、予防することはとても重要です。MCIに気づかず放置してしまった場合、3~4年後に認知症に移行する確率は5割以上とされています。認知症への進行を予防するには、本人の不安や焦燥を家族や周囲が理解し、一緒に取り組むことが大切です。

「自分がMCIなんて…と思いましたが、今は認知症に進行しないようどうすべきかを考えています。症状を隠しても何にもなりません。きちんと周りに理解してもらいサポートしてもらうことで自信が戻りました」とYさん。「ドライブが趣味なのですが、MCIと診断されてから、危険を意識し、自分なりのルールを決めて運転するようにしています。」

要注意!高齢ドライバーによる交通事故

近年、高齢ドライバーが高速道路を逆走し事故を起こすケースが増加しています。

2015年7月には静岡県の東名高速道路で、同年1月には首都高速道路5号池袋上り線で高齢者ドライバーによる逆走事故が起き、両方ともに死者が出ました。

2015年11月に国土交通省により発表された事故の調査結果によると、2011年~2015年9月までのおよそ5年の間に全国の高速道路で起きた逆走事故は966件。事故を起こしたドライバーのうちおよそ7割は65歳以上の高齢者で、さらに1割には認知症の疑いがあるとされています。

事故の再発防止のため、高速道路各社では、特に事故の多い合流部などで進行方向を示す標識や矢印を目立たせるなどして対策をとっています。

判断力・認知力の低下が逆走事故の引き金にも

高齢者による逆走事故の原因としては、判断力や認知力の低下が挙げられます。また、昔は片側1車線の対面走行がほとんどだったこともあり、新しくできた片側2車線の道路の逆走に気づかないといったことも。さらには、高速のSA・PAで休憩をとったものの、自分が高速にいることを忘れてしまい、一般道だと勘違いして逆走してしまうケースもあると考えられます。

高速道路の形状は複雑であるため、必ずしも認知機能の低下だけが事故の原因とは限りませんが、逆走事故の危険性などは高くなると言えるでしょう。

運転中の迷子は認知症の可能性あり

2016年2月、香川県の高速道路で、80代の男性がおよそ2時間にわたり、逆走や接触事故などを繰り返しながら上下線を走行するという事件がありました。男性は「家に帰るつもりがどこを走っているかわからなくなった」と話しています。

認知症では、居場所がわからなくなる見当識障害や記憶力・判断力の低下が起きるため、迷子になりやすくなります。この男性のケースでは、本人がどこにいるのか認識できていないことから認知症の疑いも考えられるでしょう。運転中に迷子になってしまうと、混乱や不安から事故を起こしやすくなります。 また、高齢者が起こした暴走事故ではてんかんが直接の原因と考えられるものも。認知症はてんかんを起こしやすいという研究結果もあり、その関連性も注目されています。

2015年末の時点で、65歳以上の高齢者のほぼ半数が運転免許所持者です。本来、認知症と診断された場合、免許は取り消しの対象となります。しかし、現実には、診断後も運転していたり、認知症と気づかず運転を続けていたりというケースも多数。こういった高齢者による事故も増加しています。 「とっさに判断できなくなった」「行先を忘れてしまうことがある」「慣れた道でも迷うことがある」などの自覚症状がある方は、早めに専門医に相談することをおすすめします。

浦上先生のプロフィール


医学博士
日本認知症予防学会 理事長
NPO法人高齢者安全運転支援研究会 理事

【主な著書】

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