物盗られ妄想の原因と対応
認知症でよく見られる妄想のひとつに、大事なものを盗まれたと訴える「物盗られ妄想」があります。このページでは物盗られ妄想の原因や対応、改善策について詳しく解説します。
- この記事の目次
物盗られ妄想とは
物盗られ妄想とは、認知症で起きやすい被害妄想の一つで、大事な物を盗られたと訴える症状です。多くは財布や現金、貯金通帳や宝石類など財産に関連するものを盗まれたと思い込んでしまいます。
認知症でなくとも、高齢になると「置き忘れ」をすることがありますが、その場合は「自分が置き忘れた」自覚があります。認知症の物盗られ妄想の場合は、自分が失くした自覚はありません。記憶障害によって置き忘れた事実を覚えていられないため、ほとんど探す事もなく「ない=盗まれた」と即断してしまうようです。
出現頻度が高い妄想
物盗られ妄想は、日本では※女性に多く見られる症状です。症状が出るのは、比較的身体が動く初期と言われています。認知症の妄想の中でも出現頻度が高く、当サイトでコラムを執筆している今井幸充先生は以下のように説明しています。
認知症の人の妄想の出現頻度は、比較的高く、東京都の調査によると認知症の人の約15%に妄想が見られ、またアルツハイマー型認知症の15~56%に、脳血管性認知症の27~60%に見られるとの報告もあります。この妄想の特徴は、被害的な内容が多いのですが、特に自分の財布や貯金通帳が盗まれたと訴える「物盗られ妄想」は、8割以上と言っても過言ではありません。
(ユッキー先生の認知症コラムより)
身近な人が疑われやすい
物盗られ妄想で盗んだとされるのは、介護をしている時間が長い人が多いと言われています。中でも、何でも言いやすいお嫁さんや娘さんの場合が多く見られるようです。その他、家に出入りをするようになったヘルパーさんや、施設の職員が対象になる場合もあります。
物盗られ妄想が起こる原因
記憶障害や思考力の低下
認知症の中核症状により記憶が失われ、自分で大切なものをしまったこと自体を覚えていられません。また、ぼんやりするなど思考力の低下も見られるでしょう。このような状態と併せて、もともとの性格や生活背景などの社会的要因が大きく関係していると考えられます。社会的要因と失われた記憶を取り繕うために「盗まれた」という妄想を引き起こすといわれています。
不安感や喪失体験の連続による怒りや悲しみ
東京都健康長寿医療センターの粟田主一教授は、認知症に関する講演で、物盗られ妄想についてAさんという女性を例に挙げて説明しました。
「夫を失い、仲良しだった姉を失い、更に物忘れが出てきて日々失敗が重なっています。自信を失い、人付き合いを失い、健康も失い、年を経るごとに財産も少しずつ失っている。こういった”喪失体験の連続”の中で”財布を見失う”という体験をしているのです」
高齢になると、親しい方が亡くなったり、財産が減ってきたり、体調を崩したりといった状況が重なりがちです。このような状況の中、怒りや不安から、財布が見当たらなかったことを「誰かのせい」にしてしまうと考えると、理解できるのではないでしょうか。
物盗られ妄想が起こった時は
落ち着いて話を聞く
「あなたが盗った」と言われると「盗っていない」と言いたいところですが、まずは、肯定も否定もせず「それは大変ですね」などと同意し、落ち着いて話を聞きましょう。泥棒扱いされるのは気分が悪いですが、言い合いをしても相互の関係は悪循環となります。
話を聞く際には、「一緒に探してみましょう」などと声かけをした上で、身の回りを探します。見つかった場合は「ありましたよ」「よかったですね」など、必ず肯定的な声かけをするようにしましょう。
別の話題に変えてみる
物盗られ妄想が出ている時には、興奮している事が多いので、探しながらご本人が好きな番組や食事の話など、別の話を切り出すよよいでしょう。また本人に物盗られ妄想がある事を理解している方を呼び、1対1にならないようにすると、注意が逸れて収まる場合があります。
物盗られ妄想に対処するには
話を聞く機会を増やし、不安感を軽減する
興奮が見られていない時に、本人が不安に思っている事がないか、話を聞いてみてください。「配偶者を失くし、息子夫婦と同居を始めた」「ヘルパー利用をし始めた」など、環境の変化が不安の原因となっている場合があります。 生活リズムが変わることが、認知症の方ににとって負担になっている事があるのです。子供夫婦と同居が始まった時には、元々住んでいる家族の中に入っていくため、認知症ではなくとも疎外感を持つ人は多いようです。
忙しい時に話しかけられた時にも「忙しいから」と突き放さずに「後で聞きますね」などのフォローが必要です。話しかける機会を多く持つと、物盗られ妄想も改善される場合があります。
サービスの利用で介護負担を減らす
実際に犯人扱いされている中で、否定せず優しく対応するのは難しいことです。ヘルパーや施設職員は、仕事として関わっているので、対応も勉強していますし感情的にならずにすむのですが、家族での対応は感情的になりやすくなります。介護ストレスを減らすためにも、ケアマネージャーに相談し、デイケアなどのサービスを積極的に利用しましょう。
医療機関で診察を受ける
被害妄想がきっかけで、認知症だとわかるケースがあります。初期の段階で認知症とわかれば、薬での症状改善やリハビリでの進行抑制が期待できるので、早めに診察を受けましょう。本人が拒否している場合は、地域包括支援センターなどに相談してみてください。
参考文献:1)今井幸充.認知症を進ませない生活と介護.法研,平成27年,p175.
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