認知症と尿失禁(排尿障害)
認知症の症状が進むと、「尿失禁」の症状が出る方が多くいます。尿失禁の原因はは加齢によるものや、脳の障害によるものなどいくつかありますが、ここでは認知症の方の尿失禁について解説します。
- この記事の目次
そもそも失禁とは?
尿を漏らしてしまう症状が尿失禁です。
尿失禁の種類は加齢や病気によって様々で、骨盤底筋が緩むことにより、咳やくしゃみでお腹に力が入った時に起こる「腹圧性尿失禁」、尿をこらえきれずに漏らしてしまう「切迫性尿失禁」、その両方の混合である「混合型尿失禁」、前立腺肥大などで尿が出にくく漏れてしまう「溢流性尿失禁」などがあります。認知症で現れる尿失禁は「機能性尿失禁」と呼ばれるものです。
機能性尿失禁の症状
機能性尿失禁の場合、排尿機能自体は正常です。しかし、加齢によるADL(日常生活動作)の低下や認知機能の低下によって、尿を漏らしてしまいます。
ADLの低下によるもの
歩行が困難でトイレに間に合わなかったり、排尿動作がゆっくりで時間がかかるため、結果的に尿失禁となってしまうケースです。
認知症の影響によるもの
見当識障害など認知機能の低下により、トイレの場所だけでなく、排泄行為自体を理解できない場合も出てきます。認知症の方の場合、以下のような状況が考えられます。
・トイレに行きたくても、人にうまく伝えられない
・トイレの場所や、使い方がわからない
・トイレへ行くことを忘れてしまう
・膀胱がいっぱいでも、その感覚が認識できない
・排泄行為自体がわからなくなり、トイレではないところで排泄してしまう
その他、環境の変化によって尿失禁が現れる場合もあります。施設への入所など、普段と違う環境でトイレがわからなくなったり、暗い夜間には、距離や方向の感覚が掴めずトイレに行けない場合もあります。
尿失禁への対策
トイレの表示をわかりやすく
大きな字で「トイレ」と書いてドアに貼っておくなど、一目でトイレとわかる工夫をしましょう。文字に対する認識も薄れている場合は、便器の絵を貼っておくのも効果的です。
トイレの環境を整える
手すりをつけるなど、本人が動作しやすい環境を整えてみましょう。中だけでなく、トイレに向かう道筋にも伝い歩きができるような手すりをつけることで、スムーズにトイレを使えるようになることもあります。
脱ぎ着しやすい服を選ぶ
ボタンやファスナーの位置など、排泄の際に、本人が慣れた動作で脱ぎ着できる服を選びましょう。
夜間は明かりをつけておく
前述の通り、薄暗い廊下などでは距離や場所を認識しづらくなります。トイレに向かう道筋を明るくしておくことが大切です。同時に、つまずく恐れがあるものなどは片付けておきましょう。
トイレのサインを見逃さない
トイレに行きたいことを本人が伝えられない状態でも、落ち着かずそわそわするなど、何かしらのサインがあるはずです。そのサインを見極め、タイミングよくトイレへ誘導できるよう、よく観察してみてください。
定期的にトイレへ誘導する
トイレに行きたい感覚がわからなくなっている場合は、食事の後や水分摂取した数時間後など、生活リズムに合わせてトイレへ誘導してみましょう。本人が行きたがらなくても、連れて行くと排泄することもありますので、時間を決めて排泄を促すことも有効です。
対応のポイント
怒らない
トイレの失敗は本人にとって自尊心を傷つける大きな出来事です。羞恥心から汚れた下着を隠す方も多いようです。しかし、そこで怒ったりせず、優しく対応することが大切です。なるべく深刻な雰囲気にならないよう気をつけ、本人の自尊心を傷つけないコミュニケーションを心がけてみてください。
介助で自立を助ける
「尿失禁があるからオムツ」という判断をする前に、身体が動く場合は、なるべくトイレを利用できるよう介助しましょう。認知症では、日常生活における自立サポートが大切なポイントの一つです。助けがあればできることは、なるべく本人が行えるよう、手助けをしてみてください。 トイレまで向かうのが難しい場合は、ポーダブルトイレを利用するのもよいでしょう。ただし、上記にあるように、認知症の方は環境の変化が苦手なため、新しいものを導入する場合、慣れるまで根気よく介助することが重要です。
プロの手を借りる
日々続く排泄のケアは、介護者にとって大きな負担ですが、排泄というデリケートな問題を外に相談するのをためらう方も多いようです。介護者自身が倒れてしまう前に、ショートステイを利用したり、ケアマネージャーに相談するなど、プロの手を借りることも考えてみてください。
参考文献:1)今井幸充.認知症を進ませない生活と介護.法研,平成27年,p170~171.
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